臆病者のための株入門
橘 玲
ポイント
①臆病者は「全世界株式のインデックス投資」
②各自のリスク許容度にあわせて、国債(預貯金)と株式ポートフォリオの割合を決めること。
③金融知識を身につけて、ぼったくりから身を守れ
株式市場は人々の欲望が生み出した巨大な迷宮だ。
次に何が起こるか誰にもわからない。
”金融のプロ“が正しい道を教えてくれないのなら、自分のちからで歩きはじめるしかない。
①臆病者は全世界株式のインデックス投資
プロが運用するアクティブファンドも、プライベートバンクも、市場の動向を正しく予想することはできない。
臆病者にとっての正解は、インデックスファンド。
投資対象は、全世界の市場に投資すること。
「経済学的にもっとも正しい投資方法」
株式市場を数学的に解析するファイナンス理論の頂点に君臨する「経済学的にもっとも正しい投資方法」は筆者いわく、
サンダルをつっかけて近所の証券会社に出かけ、
「すいません。インデックスファンド10万円分ください」
と注文すること。とある。
経済理論でいう「市場」とは、地球全体のこと。
コストが低い全世界株式のインデックスファンドを選ぶこと。
全世界株式は、人類の経済規模が拡大を続けている限り期待リターンがプラスになるだろう。
ファイナンス理論の2つの原則
⑴市場は効率的で、株式投資は偶然のゲームだから、長期でみればだれも市場平均を上回れない。(じたばたすると手数料コストの分だけ損する)
⇨アクティブファンドやプライベートバンクに頼ることなく、低コストなインデックスファンドへ投資するべし。
⑵長期スパンでみれば市場は拡大し、株価は上昇する。
⇨買ったら手放さずにもっておくこと。
富は”複利のちから”で大きくなる。
②リスク許容度にあわせて、国債(預貯金)と株式ポートフォリオの割合を決めること。
ファイナンス理論からいえば、世界市場ポートフォリオはリスクに対するリターンが最も高い効率的な投資法。
世界市場ポートフォリオとは、世界市場全体に投資すること。
資産運用は「アセットアロケーション」で成功の8割がきまる
アセットアロケーション(資産配分)を戦略的に考えることで、成功が左右される。
・もしあなたに投資リスクを受け入れる用意があるのなら、資産の全額を全世界株式で運用するのもひとつの有効な戦略。
・iDeCoを使って、投資上限の満額まで全世界株式ファンドで運用し、残りは預貯金というポートフォリオもあり。
・圧倒的に有力な選択肢は、国内株式15%・海外株式85%。
最大の資産は「あなた自身」
サラリーマンとして生涯稼ぐ額は、3億とも4億とも言われている。
この「働くという価値」(人的資本)はとてつもなく大きい。
定年やリストラによって仕事ができなくなると、この資産が一挙に失われる。
20〜30代は、資産全体に占める人的資本の割合が高い。
しかし、人的資本は年齢的に減価し、退職した時点でゼロになってしまう。
資産形成では、
人生の前半では人的資本が、
後半では金融資産の運用能力が大きな影響をもつようになる。
③金融知識を身につけて、ぼったくりから身を守れ
リスクの意味がわかれば「元本保証で儲かる商品ってなんですか?」なんて質問が出てくるはずがない。
投資は偶然性に左右されるゲームであり、確実に儲かる方法など存在しない。
金融リテラシーは最大の防御
確実の儲かる方法はないが、確実に損をする方法ならいくらでもある。
金融商品は、金融リテラシーのない人たちからぼったくるために作られている。
自分が無知なことに無自覚で、かつ自分の判断が正しいと信じている人たちが、『絶好のカモ』となる。
金融リテラシーとは、「おいしい話」に潜む罠を読み解く技術のこと。
投資家が自身を守るための唯一にして最大の武器となる。
罠を読み解く技術
おいしい話の背後には何が潜んでいるのか?
「常識と合理的な推論」によって考える。
・期待値の計算
勝率を正しく計算できないギャンブラーは、生き残っていけない。
日本のギャンブルの期待値
宝くじ:46.4%
競馬などの公営競技:75%
ラスベガス
ルーレット:95%
パチンコ:97%
バカラやクラップス:99%〜99.9%
一度の勝負に大金を投じる筋金入りのギャンブラー(ギャンブル中毒者)がバカラを好む理由は、この期待値の高さにある。
・コスト意識
コストは期待値を下げるだけで、何も生み出さない。
外貨預金は最もコストが高い手段。
証券会社の外貨MMF(外貨預金に近い投資商品)は、両替手数料が約半分、分配金への課税が20%。
為替FX:両替手数料が5〜10銭と安いが、売買単位は1万ドルがふつう。売却益・金利が雑所得として課税対象。
金の現物:金庫をお金を払って借りて、そこにおいておく?
覚えておくこと
・大手銀行もぼったくり商品を熱心に売ってくる
・複雑な仕組みで、かつ儲かるといわれる金融商品には手を出さないほうが無難。
ぼったくりの仕組みを投資家にわかられないように設計がされているから。
・毎月分配型ファンドの分配原資は自分が投資した元本の切り崩し。
かつ分配された金額に課税義務があるから、投資家が自らすすんで余分に税金を払うためにのみ存在している。
・「元本確保型ファンド」を金融機関がプッシュしてくるのは、自分達はリスクの少ない割引債権で運用、かつ申込者から、通常の何倍もの手数料を徴収できるから。
・生命保険は「不幸の宝くじ」。宝くじは当たって嬉しいことでお金が支払われる。
しかし生命保険は誰かが死んだり、病気や怪我をして初めて支払われる。わずかな賭け金で大きな賞金が支払われるかわりに、ほとんどの人がその特性を有効に活用することができず、掛け金だけを払い続ける。
・生命保険と投資信託を足したような、貯蓄型の保険はぼったくりの代表例。
そもそも、保険と投資信託はまったくの別物。掛け金が増えるかもしれないという名目で、意味のない保険に半強制的に加入させられる。
まとめ
・株式投資はギャンブルである。
・投資家の仕事は、損をすることである。
他の投資の入門書的なジャンルの本には書いていないであろう言葉が並ぶ。
しかし、これらの言葉の根拠は初心者でもわかる内容で説明されている。そして、ギャンブラーになることも、損をしなくて良い方法(インデックス投資)へと導いてくれる。
右肩上がりの相場を体感し、これさえやっておけば資産が増える!と無自覚に思っていた節があった。
しかし、この本は「臆病者」としての基本・原理に忠実な投資方法を教えてくれる。
お金が増えると聞くと、誰しも心の鍵を外してしまいそうになるが
世の中そんなは甘い話はないよ。
自分のところまでくる美味しい話は、あなたが、ネギを背負ったカモに見られているからだよ。
ということを思い出させてくれる。
入門書でもあり、投資成績が上向いているときにこそ立ち返って読むべき1冊に感じる。